エントロピーと生命――福岡伸一先生の視点から読み解く「いのち」の秩序

私たちの世界は、何もしなければだんだんと散らかっていきます。整えた部屋はすぐに物が散乱し、お弁当も時間が経てば腐っていく。これは、自然の大原則――「エントロピー増大の法則」によるものです。

エントロピーとは、物質やエネルギーの「乱れ」や「拡散」の度合いを表す言葉。もっと簡単に言えば、「秩序から無秩序へ向かう力」のこと。

生命はエントロピーに逆らう存在?

ここに、生命のふしぎがあります。

生物は、エントロピーが増大し無秩序になろうとする流れに、あらがうように存在している。壊れず、崩れず、一定の形を保ちながら、何十年も生き続ける。

では、どうしてそんなことが可能なのでしょうか?

福岡伸一先生が語る「動的平衡」

生物学者・福岡伸一先生は、生命の本質を「動的平衡(どうてきへいこう)」という言葉で説明します。

それは、生命が「ずっと変わり続けることで、あたかも同じ形を保っている」状態のこと。私たちの体は、実は分子レベルで見れば、日々分解され、合成され、絶えず新しく作り直されているのです。

たとえば、皮膚は数週間で入れ替わり、腸の細胞は数日で更新されます。つまり、生命は「変わり続けること」で、秩序を保っている。これが「エントロピーに逆らう力」――つまり、生命そのものなのです。

エントロピーを受け入れながら、逆らう

福岡先生は言います。

生命とは、エントロピーの海を泳ぎながら、秩序を一時的に浮かび上がらせる現象である。

つまり、生命は「秩序を保とう」とするのではなく、「秩序を生み出し続けている」。そのためには絶えず食べ物を取り入れ、代謝を行い、情報を受け取り、応答し続けなければなりません。

生命は、静止した「完成形」ではなく、動き続ける「プロセス」なのです。


おわりに

エントロピーとは、世界が無秩序へ向かう流れ。
生命とは、その流れに逆らうように、秩序を編み続けるプロセス。
福岡先生の言葉を借りれば、私たちは「止まらないことによって、生きている」。

だからこそ、生きている今この瞬間が、まさに「奇跡」なのかもしれません。

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