2025年7月11日 更新
2025年の大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンのひとつ、「いのち動的平衡館」に行ってきました。プロデューサーは分子生物学者の福岡伸一先生。その体験をふまえた感想と考察をお届けします。
まず最初にお伝えしたいのは……
❗この展示、予習してから行くのが断然おすすめです!
もちろんこの記事を読んでいただければ、その予習になります。
さらに言えば、このパビリオンにはできれば一番最初に行くのがおすすめです。他のパビリオンが高精細映像などによる没入型体験で視覚に訴えるのに対し、「いのち動的平衡館」は良くも悪くも静かでアナログ。
ですが、そこには「静けさの中で、深くいのちに問いかける展示」という確かな価値があります。
🧬 パビリオン概要
- 名称:いのち動的平衡館(Signature Pavilion)
- テーマ:「いのちを知る」― 生きること・死ぬことの意味を問い直す体験
- プロデューサー:福岡伸一(生物学者・作家)
- 設計:橋本尚樹(NHA)
- 構造:大径リング+ケーブル張力による、柱のない膜屋根空間
福岡伸一先生のプロフィール
福岡伸一先生プロフィール
- 1959年東京都生まれの生物学者・作家
- 京都大学農学部卒業、博士課程修了後、ハーバード大学・ロックフェラー大学で研究
- 現在、青山学院大学教授・ロックフェラー大学客員教授
- 専門は分子生物学で、「動的平衡」をキーワードに生命観を発信
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🧠 押さえておきたいキーワード
▶ 動的平衡とは?
見た目は変わらないように見えても、実は常に内側で変化している状態のバランスのこと。
「生命は、止まると死ぬ。
絶えず壊しながら作り直し続けている。
それが動的な平衡状態にある」
― 福岡伸一
私たちの体は毎日同じように見えても、少しずつ作り変えられています。これが「動的平衡」という考えです。
▶ エントロピーとは?
物事の乱れ具合、情報のあいまいさを示す概念。元は熱力学用語ですが、生命科学にも応用されます。
福岡先生の解釈では:
- 生命はエントロピーの増大(=自然なバラバラ状態)に抗う存在
- 代謝や食事を通じて、秩序を維持している
例:整えた部屋が放っておくと散らかる、お弁当が腐る=エントロピー増大の例
🏗 建築と構造の特徴
- 外観はペールピンクの曲線膜屋根で、生命の浮遊感を表現
- 外壁には、ルリボシカミキリの構造色と同じ原理の素材を使用
※構造色=色素ではなく、微細な構造による光の干渉で発色する仕組み - 内部は直径約40 m×25 m、内柱ゼロの無柱空間
外周リングとケーブルで支える構造が特徴
🎥 展示内容と見どころ
🔄 動的平衡ゾーン
生命が「分解と合成を繰り返しながらバランスを保つ」プロセスを体感的に学ぶ展示。
🌌 クラスラ(Clathra)
32万球のLEDで構成された立体シアター。細胞誕生・進化・共生の物語を光で描写。幻想的で引き込まれる体験ができます。
🎙 福岡伸一先生のメッセージ映像
「死とは何か?」「なぜ生きるのか?」といった問いに対して、福岡先生が語りかけます。科学だけでなく、哲学的・詩的な視点も。
💀 福岡伸一先生の「死」に関する考え方
1. 死は「停止」ではなく「プロセスの終点」
「死とは、動的平衡が保てなくなった状態にすぎない」
― 『動的平衡』より
生命は流れ。死はその流れの完了。
2. 死があるから、生命は輝く
「いのちが有限であるからこそ、いのちは美しい」
― パビリオン展示メッセージ
永遠でないからこそ、いのちは尊い。
3. 死は再生・循環の一部
「生命は連続的な流れであり、死はその中の“節”にすぎない」
死は終わりではなく、別の生命の始まり。
4. 個体の死=“場”の変化
生命を「場」として捉える福岡先生。個人の死は、“場”が別の秩序に変わるだけだといいます。
💡 まとめ(要点3つ)
- 死は自然な出来事:「いのちの流れ」の終点
- 限りがあるからこそ美しい:有限性が生命に意味を与える
- 死は終わりではない:新たな命へのバトン
福岡先生の死生観には、科学と詩の感性が共存しています。「死を恐れるのでなく、いのちを慈しむ」姿勢を私たちに示してくれます。
🔍 利用情報
- 所要時間:約15分(体験+解説映像) (ターナカフェ)
- 開館時間:9:45~21:00(9:30〜9:45は予約なしで先着入場可能枠あり) (TRAVEL TO…)
- 入場方法:完全予約制+当日キャンセル待ち(アプリ)、19:20~のショート版は自由入場可 (おでかけブログ)
🌟 魅力ポイントまとめ
- 柔らかな膜構造が「自立する生命」のビジュアルを象徴
- LEDインスタレーション「クラスラ」で、進化の壮大な流れを体感
- 福岡伸一氏の死生観が、生命へのまなざしを深める
- 今回の万博の「いのちかがやく・・・」というテーマながら、このいのち動的平衡館は唯一死について肯定しているパビリオンになっている
✔️ 結びに
「いのち動的平衡館」は、建築・科学・哲学が見事に融合した、他にはないパビリオンです。
見た目は派手ではありませんが、その静けさの中に、いのちの本質を深く問いかける力があります。
幻想的な空間で“いのち”について自分なりに考えてみたい人に、心からおすすめしたい展示です。


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